怪談:妖しい物の話と研究


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奇談
1 :小林 ◆YAKUMOZcw.:2014/08/04(月) 15:16:03.69 ID:XRRvBaIb0
【出版依頼】
【著者】ラフカディオ・ハーン
【翻訳編集】小林幸治
【予定価格】100円

小泉八雲の「怪談」に収録されていない、霊的な話や不思議な話を収録して
電子書籍にします。

話の画像はいつでも募集してます。謝礼はカラー2000円、モノクロ1000円、
著作権は絵師に残り、私に利用権を与え、著作権者は他所で利用しても良い
という方向です。

2015/03/09修正と追記
内容を追加した改訂版の無料アップデートはKindleの規約上不可能であると分かりました
14話程度で1冊作り3巻の電子書籍にする予定です
最後に全話まとめて1冊作り、計4冊にしようかと思います

182 :天狗の話1 ◆YAKUMOZcw.:2016/11/12(土) 00:37:20.69 ID:2i2hxR390
天狗の話

※この話は『十訓抄』と呼ばれる古く珍しい日本の本で見付か
るだろう。同じ伝説は興味深い能の舞いの演目を提供し、大会
《だいえ》(大きな会合)と呼ばれた。
 日本で人気の芸術で天狗は一般的にくちばし状の鼻をした翼
の有る人として、あるいは猛禽類として、どちらかで表現された。
異なる種類の天狗もいるが、全ては山に出没する精霊と想像され、
多くの姿を装う能力が有り、時おり烏や鷲や鷹として姿を見せる。
仏教ではマーラ・カーィカスの仲間に天狗を分類するように見える。

 後冷泉《ごれいぜい》天皇の時代、京都に近い比叡山という山
の、西塔寺に住む徳の高い僧侶がいた。ある夏の日、この善良な
僧侶が都への訪問からの帰り、寺のそばの北の大路の道で何人
かの子供が鳶《とび》を虐めているのに出くわした。彼らは罠で捕ら
えた鳥を棒で叩いていた。「ああ、かわいそうなことだ。」僧侶は情け
深く大きな声で言った──「子供達よ、どうしてそれを苦しめるのだ。」
子供の1人が答えた──「殺して羽根を取りたいんだよ。」憐れみに
動かされた僧侶は、持っていた扇子《せんす》と引き換えに鳶をよこす
ように子供達を説得し、鳥を解き放った。重傷ではなかったそれは、
飛び去ることが出来た。

 仏教徒の善行を施せた満足をし、僧侶は歩みを再開した。それほど
遠くまで進まないうちに、道端の竹薮から奇妙な修行僧が出て来て
急いで彼の方へ向かうのが見えた。修行僧は恭《うやうや》しくお辞儀
をして言った──「お坊様、あなたの情け深い親切のお陰で命を拾い、
それで今礼儀正しく謝意を表明したいと思います。」このように自分に
宛てられた口上を聞いて驚いた僧侶は答えた──「本当ですか、これ
までに会ったのを思い出せませんが、どうかあなたが何者なのか教え
て頂けませんか。」「この姿の私に覚えが無いのは不思議では有りま
せん」と修行僧は返した「私は北の大路で狂暴な子供に苦しめられて
いた鳶です。あなたは命の恩人、そしてこの世に命より大切な物は有
りません。それで今何かしらの形で親切のお返しがしたいのです。何
か欲しい物や知りたい事、見たい物が有れば──要するに、私に出来

183 :天狗の話2 ◆YAKUMOZcw.:2016/11/12(土) 00:38:54.38 ID:2i2hxR390
ることなら何でも──少しばかり備わってきた六心通の力で、お申し
出なされるどんな望みでもほぼ満足して頂けますから、どうかおっしゃっ
て下さい。」この言葉を聞いた僧侶は、天狗と話しているのだと分かり
率直に答えた──「友よ、齢《よわい》七十になる今の私は、長らくこの
世の物事を気にすることを止めています──名声も娯楽も少しの魅力
も有りません。来世についての事だけが気掛かりに思いますが、誰に
も助けて貰えない問題ですから、それについて訊ねるのは無益でしょう。
実のところ1つだけは、望む価値が有ると思っています。私の生涯で悔
やまれるのは、釈尊《しゃくそん》の時代の天竺に生まれなかったため、
聖なる山の霊鷲山《りょうじゅせん》で行われた偉大な説法に参列出来
なかったことです。朝晩の祈祷の時間に、この無念が起こらないで済む
日は有りませんでした。ああ我が友よ、菩薩のように時空の征服が可能
なら、私はあの素晴らしい集会を見られたら、どんなにか幸せでしょう。」
──「おや、」天狗は声を上げた「その敬虔な願いは簡単に叶えられま
すよ。霊鷲山での説法は完璧なまでによく覚えていますから、そこで起
こったことを正確にあなたの前で、何もかも起こったまま再現してあげら
れます。そのような聖なる問題を表現するのは、我々の大いなる喜び
です……この道を一緒に来て下さい。」
 そして僧侶は、丘の斜面の松の間の地へ苦労して案内された。「さて、」
天狗は言った「あなたはここで目を閉じて、しばらくお待ちになるだけです。
法を説く仏陀の声が聴こえるまで開けてはなりません。それから見ること
が出来ます。けれど仏陀が姿を現すのが見えても、どんな形であれ信心
深い感情の影響を許してはなりません──お辞儀や祈りもしてはならず、
『仰《おおせ》のままに』とか『ありがたや』のような、どんな感嘆も絶対にし
ないで下さい。全く話すべきではありません。少しでも崇拝の仕草でもする
なら、私は何かとても不幸なことに見舞われます。」僧侶はこの指示に従う
と快く約束し、天狗は見せ物の用意をするかのように急いで立ち去った。

184 :天狗の話3 ◆YAKUMOZcw.:2016/11/12(土) 00:42:12.15 ID:2i2hxR390

 日が暮れて暗くなってきたが、老いた僧侶は目を閉じた
まま根気よく木の下で待った。ついに、唐突に声が頭上に
響き渡った──鳴り響く大鐘のような低く明瞭な素晴らしい
声は──正道《しょうどう》を布教する釈迦牟尼仏の声で
あった。それから大きな輝きの中で僧侶が目を開けると、
周囲の全てが実際に霊鷲山の地に変わっているのを認識
した──インドの神聖な山、霊鷲山で時は法華経の頃であっ
た。今では周囲から松は無くなり、宝石の果実と葉を付けた
不思議な輝きを放つ七宝珠の木 が有った──そして大地は
天界から降る曼陀羅華と曼珠沙華の花で覆われ──夜は
芳香と光輝と甘い大きな声で満たされていた。そして中空で
世界の上に輝く月のような、右手に普賢菩薩を左に文殊菩薩
を従える獅子の座(1)に座る祝福された存在を僧侶は見た─
─その前には──星の洪水のように果てしなく宇宙に広がる
──摩可薩と菩薩の軍勢が無数の「諸天、夜叉、龍蛇、阿修羅、
人、人外」を引き連れて集まった。舎利仏が、そして迦葉、阿難陀、
それと共に如来の弟子のことごとくが──そして諸天の王──
更に火の柱のような四方位の王──偉大な龍王──乾闥婆と
迦楼羅も──日と月と風の神──梵天が統べる天界の無数の
輝きが見えた。そしてこれまでの無限のこの栄光の輪よりも比較
にならない遥か先に──祝福された存在の額から放たれる、1条
の光線が時空を貫いたその先まで照らされて──東方の百八十万
の仏陀の畠とその住人の全て──六道のそれぞれに生活する
存在──涅槃に入り寂滅した諸仏の姿まで見えた。これ等と諸天
の全てと夜叉の全てが獅子の座を前にひれ伏すのが見え──
釈尊の前に海の唸りのごとく──無数の群集が法華経を讃える
のを聞いた。その時すっかり誓約を忘れ──正に仏陀そのものの
面前に立つ愚かな夢を見て──愛と感謝の涙を流して礼拝のため
に身を低く投げ出し大きな声で叫んだ「ありがたや……」

185 :天狗の話4 ◆YAKUMOZcw.:2016/11/12(土) 00:42:39.68 ID:2i2hxR390
 荘厳な光景は地震のような衝撃と共にあっという間に消失し、気が
付くと僧侶は暗闇の中を山腹の草の上に独り跪いていた。それから
無分別にも約束を破ったせいで幻影の喪失を招いたことで、言いよう
の無い悲しみに襲われた。悲しそうに帰途へと歩を返すと、もう一度
妖かしの修行僧が彼の前に現れ苦痛と非難のこもった調子で言った
──「私とした約束を守らずに、不注意にも感情の支配を許したため、
教義の守護者である護法天童が突然ものすごい怒りで天界から我々
の上に飛び降りて強く打ちのめし『どうして汝らは、このように信心深い
者を欺く企《たくら》みをするのか。』と叫びました。すると私が集めた
別の僧徒達は恐れてみんな逃げました。私自身はどうかと言えば翼
の1つを折られました──これで今は飛ぶことが出来ません。」この
言葉と共に天狗は永遠に姿を消した。


(1)訳注:玉座。

186 :小林 ◆YAKUMOZcw.:2016/11/12(土) 00:45:04.86 ID:2i2hxR390
In Ghostry Japan(霊的日本にて)より
Story of a Tenguでした。



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