怪談:妖しい物の話と研究


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奇談
1 :小林 ◆YAKUMOZcw.:2014/08/04(月) 15:16:03.69 ID:XRRvBaIb0
【出版依頼】
【著者】ラフカディオ・ハーン
【翻訳編集】小林幸治
【予定価格】100円

小泉八雲の「怪談」に収録されていない、霊的な話や不思議な話を収録して
電子書籍にします。

話の画像はいつでも募集してます。謝礼はカラー2000円、モノクロ1000円、
著作権は絵師に残り、私に利用権を与え、著作権者は他所で利用しても良い
という方向です。

2015/03/09修正と追記
内容を追加した改訂版の無料アップデートはKindleの規約上不可能であると分かりました
14話程度で1冊作り3巻の電子書籍にする予定です
最後に全話まとめて1冊作り、計4冊にしようかと思います

12 :ちんちん小袴1 ◆YAKUMOZcw.:2014/08/15(金) 11:40:16.15 ID:fltZOasb0
ちんちん小袴《こばかま》

 日本の部屋の床は葦を編んだ分厚く柔らかで美しい複数の敷物で覆われて
いる。それらは共に非常に近接してぴったり合わせてあるから、あなたはその
すき間にナイフの刃を問題無くゆっくり滑らせることができる。それらは毎年
一度取り替えられ、非常に清潔に保たれている。日本人は家の中では靴を
着用せず、椅子やイギリスの人々が使うような家具を使用しない。彼らは座る
のも、眠るのも、食事も、時には書き物でさえ床の上でする。そういった敷物は
実のところ非常に清潔を維持しなくてはならないが、日本の子供は言葉を
話せるようになるとすぐに、敷物を傷めたり汚したりしないよう教えられる。

13 :ちんちん小袴2 ◆YAKUMOZcw.:2014/08/15(金) 11:40:56.81 ID:fltZOasb0
 さて 日本の子供達は本当にたいへん立派だ。旅行者の全てが日本について
楽しい本を書いたが、日本の子供達はイギリスの子供達やそれより腕白さで
劣る子供達よりはるかに素直だと発表している。彼らは物を傷付けたり汚したり
せず、自分だけの玩具でさえ決して壊さない。小さな日本の女の子は彼女の
人形を壊さない。いや、素晴らしい手入れをして、大人になって結婚した後で
さえずっと持っている。彼女が母親になり娘を持つ頃、その人形を小さな娘へと
与える。そして、その子も母親がしたのと同じ手入れを人形にし、彼女が大きく
なるまで保管し、最後に自身の子供に与え、その子もまさしく祖母がしたのと
同様きちんと遊ぶ。そうして私は──あなたにこのちょっとした話を書いているが
──日本で百歳以上の人形達を見てきたが、新品と変わらず本当に可愛らしい
外見だった。これは日本の子供達がどんな具合で非常に立派なのかあなたに
示し、どうして日本の部屋の床がほとんどいつも清潔に保たれているのか理解
できるだろう──引っ掻いたり腕白な遊びで台無しにされずに。
 あなたは、全て、日本の子供達全員がそんな風に立派なのかと訊ねる──
いや、まれに、ごくごくまれに横着なのがいる。では、この横着な子供の家の敷物
では何が起こるか。大きな悪いことは何も無い──敷物を手入れする妖精がいる
からだ。この妖精達は、敷物を汚したり傷めたりする子供達を、いじめたり怖がらせ
たりする。少なくとも──かつては、そんなやんちゃな子供達をいじめたり怖がらせ
たりしたものだ。私はこの小さな妖精達がまだ日本に住んでるいるのか、全く確信が
無い──新しい鉄道や電信柱が怖がらせて、かなり多くの妖精達が去ったからだ。
だが、それについてのちょっとした話がここにある。

14 :ちんちん小袴3 ◆YAKUMOZcw.:2014/08/15(金) 11:48:27.72 ID:fltZOasb0
 かつて、たいへん可愛らしく、そのうえ非常に無精な小さな女の子がいた。
彼女の両親は裕福で、たいへん多くの使用人があり、この使用人達は小さな
女の子にとても優しく、自分のためにできる彼女がするべきことの何もかも
してくれた。おそらくこのことが彼女をたいそうな無精者にしたのだろう。彼女が
美しい女性に成長した時も、まだ無精なままだったが、使用人達がいつでも
服を着せたり脱がせたり髪を整えて、とても魅力的な外見にしたので、彼女の
欠点については誰も考えなかった。
 ついに彼女は勇敢な戦士と結婚し、別の家で暮らすために彼と共に出て
いったが、そこは使用人が少なかった。実家で持っていたのと同じほどの
使用人がいないため、世間ではいつでも自分ですることのいくつかを、彼女が
しなくてはならなくなったので気が重かった。それは、着物を自分で着替えたり、
自分の着物の手入れをしたり、きちんとした小綺麗な身なりで夫を喜ばせると
いった悩みだ。しかし夫は戦士なので、しばしば軍隊と共に家から離れることが
あり、たまには望む通りの無精ができた。夫の両親はとても老いていて、人の
良い性格で、やかましく言わなかった。
 やれやれ、夫が軍隊で留守のある晩、彼女は部屋の中の小さな雑音で目を
覚ました。大きな提灯のそばで、とてもよく見えるところに、奇妙なものが見えた。
なんだろう?
 まるで日本の戦士のような服装だが、わずか二センチ余りの背丈の、数百の
小さな男達が、全員で彼女の枕の回りで踊っていた。彼らは夫が休日に着る
のと同じ種類の服──(裃《かみしも》、四角い両肩を備えた長い衣)──を
着て髪は結んで縛られ、それぞれが小さな二本の刀を身につけていた。全員が
躍りながら彼女を見て、笑い、全員が同じ歌を、何度も繰り返し歌った──

15 :ちんちん小袴4 ◆YAKUMOZcw.:2014/08/15(金) 11:49:22.97 ID:fltZOasb0
 ちんちん小袴
 夜も更け候──
お静まれ、姫君──
 やとんとん

その意味は「我々はちんちん小袴である──夜遅い──眠りなさい、高貴な貴族の
かわいい人よ」
 この言葉はとても礼儀正しいが、すぐにこの小さな男達は彼女を残酷にからかって
いるだけなのがわかった。彼らもまた醜い顔を作って彼女へ向けた。
 彼女はいくつかを捕まえようと試みたが、辺りをとても素早く跳ね回るので、それは
できなかった。それから追い払おうとしたが、彼らは出て行かず、彼女を笑いながら
「ちんちん小袴……」と歌うのをやめなかった。そして、これが小さな妖精だと
分かると、叫ぶことさえできないほど非常な恐怖の虜となった。彼らは朝になる
まで彼女の回りで踊り続けた──それから全員が突然消え去った。
 彼女は何が起こったか、誰かに告げるのを恥じた──彼女は戦士の妻なので、
どんなに怯えているのか、誰にも知られたくなかった。次の晩、ふたたび小さな
男達が来て踊り、その次の晩も、毎晩やって来た──いつも同じ時間、昔の日本で
使われていた「丑の刻」と呼ばれる、我々の時間にしておよそ午前二時頃だ。
しまいには寝不足と恐怖によって、とても具合が悪くなった。しかし、小さな男達は
彼女をひとりにしようとはしなかった。夫が帰宅し、彼女が病で寝込んでいるのが
分かると、たいへん心配した。はじめ彼女は病の原因を話せば、笑われるのでは
ないかと恐れた。しかし彼はとても親切でとても穏やかに彼女を説得したので、
しばらくして毎晩何が起こったかを話した。彼は全く笑わなかったが、一時非常に
真剣な顔をした。それから訊ねた──
「そいつらは何時頃やって来るのだ。」彼女は答えた──「いつも同じ時刻──
丑の刻でございます。」
「よく分かった」夫は言った──「今晩、わしが隠れて見てやろう。恐れることはない。」
 そのように、その晩戦士は寝室の押し入れに身を隠し、襖の狭いすき間から
覗き続けた。
 彼は「丑の刻」まで待ちつつ覗いたが、その時突然、小さな男達が敷物を通って
やって来て、踊りと歌を始めた──

16 :ちんちん小袴5 ◆YAKUMOZcw.:2014/08/15(金) 11:49:51.87 ID:fltZOasb0
 ちんちん小袴、
夜も更け候う……

 彼らはとても珍妙な外見をし、なんとも滑稽なやり方で踊ったので、戦士は
笑いをこらえるのに苦労した。しかし彼の若い妻の怯えた顔が見えると、日本の
ほとんどの幽霊や妖怪は刀を恐れるのを思い出し、刀を抜いて、押し入れから
跳び出して、小さな踊り手達をなぎ払った。たちまち彼らの全ては姿を変えた
──何だと思う?
                       つまようじ!
 小さな戦士達はもういなかった──たくさんの爪楊枝が敷物の上に散らばって
いるだけだった。
 若い妻は爪楊枝を捨てるのを怠け過ぎて、毎日、新しい爪楊枝を使った後、
それを目につかなくするため、床の上の敷物の間に刺して落としたのだろう。
そのため敷物を手入れする小さな妖精達が怒って彼女を責め苛んだのだ。
夫が彼女を叱ると、たいへん恥じ入り、どうしたら良いのか分からなくなった。
使用人が呼ばれ、爪楊枝は焼き捨てられた。その後、小さな男達がふたたび
帰って来ることは無かった。

17 :ちんちん小袴6 ◆YAKUMOZcw.:2014/08/15(金) 11:51:48.58 ID:fltZOasb0
 無精な女の子について伝えられた話が更に有る。その子はスモモを
食べた後で、種を敷物の間に隠す習慣だった。長い間見付からずに
こんなことができた。しまいに妖精達の怒りを買い懲らしめられた。
 毎晩、小さな小さな女達が──全員が長い袖の付いた鮮やかな赤い
着物を着て──同じ時間に床から湧き出してきて、踊り、彼女にしかめっ面
を向けて眠りを妨げた。ある晩母親が身を起こして伺うと、それが見え、
叩いた──すると彼女達全員がスモモの種に姿を変えた。そうして小さな
女の子のいたずらは見付かった。その後、彼女は非常に立派な少女と
なった、確実に。

18 :小林 ◆YAKUMOZcw.:2014/08/15(金) 12:11:24.77 ID:fltZOasb0
Japanese Fairy Tale SeriesのChin Chin Kobakamaという話でした。

このシリーズは布に質感を似せた和紙に印刷された絵本で、
絵もなかなか面白いです。でも、この「ちんちん小袴」では、イラスト
と前書きでネタばれしているような・・・

敷物はmatsの訳で、この話では畳の事ですね、畳と翻訳しても
良かったのですが、文中にJapaneseという単語がいくつか有ったので
外国人視点で見るなら、敷物と訳した方が良いだろうと思いこうして
います。

ところでこの絵本、当時でも高価だったのではと想像できますが、
現在の古書市場でも40万円以上します。ネットを検索すると、
PDFファイルや、画像を掲載しているサイトが複数ヒットします。
そちらで楽しみましょうか…



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