怪談:妖しい物の話と研究


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奇談
1 :小林 ◆YAKUMOZcw.:2014/08/04(月) 15:16:03.69 ID:XRRvBaIb0
【出版依頼】
【著者】ラフカディオ・ハーン
【翻訳編集】小林幸治
【予定価格】100円

小泉八雲の「怪談」に収録されていない、霊的な話や不思議な話を収録して
電子書籍にします。

話の画像はいつでも募集してます。謝礼はカラー2000円、モノクロ1000円、
著作権は絵師に残り、私に利用権を与え、著作権者は他所で利用しても良い
という方向です。

2015/03/09修正と追記
内容を追加した改訂版の無料アップデートはKindleの規約上不可能であると分かりました
14話程度で1冊作り3巻の電子書籍にする予定です
最後に全話まとめて1冊作り、計4冊にしようかと思います

130 :猫を描いた少年1 ◆YAKUMOZcw.:2016/07/10(日) 18:08:33.89 ID:/sgcWspY0
猫を描いた少年

 遠い遠い昔、日本の田舎の小さな村に、とても善良な
貧しい百姓の夫婦が暮らしていた。子沢山なので、皆を
食わせていくのは非常に厳しいと分かっていた。年長の
息子はほんの十四歳の頃には父親を手伝うのに十分な
丈夫さで、小さな娘達は歩けるようになるやすぐに母親の
手伝いを学んだ。
 だが末っ子の小さな少年は、厳しい労働に耐えられる
ようには見えなかった。彼は非常に賢かった──兄や姉達
よりも賢かったが、かなり虚弱で小柄なので皆は大して
大きくなれないと言い合った。であるから両親は百姓になる
より坊さんになった方が良いだろうと思った。ある日、村の寺
へ連れて行き、そこの人の良い住職に小僧として坊さんの
知るべき全てを教えてくれないかとお願いした。
 老人は親切に男の子に話し、幾つか難しい質問をした。寺の
小僧として男の子を受け入れ、僧職の教育をするのに住職
が同意するには十分に賢い答えであった。
 少年が老僧の教えをすぐに覚えた姿は、ほとんどの事に
従順であった。しかし、ひとつ欠点が有った。勉強の間に猫を
描くのを好み、まったく猫が描かれるべきではない場所にさえ
猫を描く。
 ひとりになる度に猫を描いた。経本の余白や寺の屏風ばかり
ではなく、壁や柱にまで描くのだ。住職は良くない事だと度々
言って聞かせたが、猫を描くのをやめなかった。実のところ、
どうしようもなく描いた。いわゆる「天才絵師」であったが、まさしく
その理由から小僧になるには全くふさわしくなかった──良い
小僧は本で勉強しなくてはならない。

131 :猫を描いた少年2 ◆YAKUMOZcw.:2016/07/10(日) 18:11:58.78 ID:/sgcWspY0
 ある日、とても上手な猫の絵を障子に描いた後、老僧が
厳しく言った──坊や、この寺から直ぐに出て行きなさい。
おまえは決して立派な坊さんにはならないが、ひょっとする
と偉大な絵師になるかも知れない。さて最後にひとつ忠告
をしておこう、心して夢々忘れるでないぞ。「夜中は広い
場所を避け──小さくなっていなさい。」
 少年には住職の言っている事が何を意味しているのか
分からない「広い場所を避け──小さくなっていなさい。」
出て行くために着物の小さな包みを結ぶ間じゅう考えに
考えたが、この言葉を理解できず、さようならの他にそれ
以上住職と話すのを恐れた。
 とても悲しそうに寺を出て、どうしたものかと思案を始めた。
まっすぐ家に戻れば、住職の言いつけに従わなかったと父に
お仕置きをされそうで帰るのは怖かった。不意に5里ほど
離れた隣村にとても大きな寺が有るのを思い出した。その寺
には何人も坊さんが居ると聞いていたので、そこへ行って
小僧として使ってもらうようにお願いしようと決心した。
 さてその大きな寺は閉鎖されたのだが、少年はこの事実
を知らなかった。妖怪が坊さん達を怖がらせて追い払い、
その場に取り憑いたのが閉鎖された理由である。その後、
何人かの勇敢な武士が妖怪退治に夜の寺へ行ったが、再び
生きた姿を見せることは無かった。この事を少年に話す者は
まったくいなかった──したがって坊さん達にやさしく向かえ
られる期待を抱いて村までの道を歩ききった。
 村に着いた頃には既に辺りは真っ暗で皆は寝床に就いて
いたが、大通りの別の端の丘の上に大きな寺を見付け、その
寺の中に灯りが見えた。孤独な旅人に宿を乞うよう仕向ける
ため妖怪は灯りを灯すものだと、物語を語る人々は言う。少年は
すぐに寺へ行き扉を叩いた。中からの音は無い。再び叩きに
叩いたが、まだ誰も来ない。しまいにそっと扉を押すと、あいて
いるのが分かってすっかり嬉しくなった。そうして中へ入ると灯り
が燃えているのが見えた──だが坊さんは居ない。

132 :猫を描いた少年3 ◆YAKUMOZcw.:2016/07/10(日) 18:14:49.96 ID:/sgcWspY0
 すぐに何人かの坊さんがやって来るはずだと思い、
座って待った。そのとき寺の中のそこらじゅうが灰色
の埃と、厚く張った蜘蛛の巣に覆われているのに気が
付いた。ならばここを綺麗にしておくため、坊さん達には
きっと小僧が居るのが好ましいだろうと思った。どうして
何もかもをこんなに汚れるにまかせているのだろうと
不思議であった。けれども最高に嬉しかったのは、猫を
描くのに具合がいい何枚かの大きな白い障子であった。
疲れてはいたけれども、ただちに筆箱を捜し、見つけた
1本にいくらか墨をひたして猫を描きはじめた。
 障子にかなり多くの猫を描くと、とてもとても眠気を感じ
はじめた。ちょうど障子のひとつのそばの位置で、眠る
ために横になろうとすると、不意にあの言葉を思い出した。
『広い場所を避け──小さくなっていなさい。』
 寺はとても広くたったひとり、この言葉のように思えた──
それをすっかり理解はできなかったけれども──はじめて
小さな恐れを感じはじめ、眠るために『小さな場所』を捜す
決意をした。引き戸の付いた戸棚を見付けて入り、閉じ
こもった。それから横になると早速眠りに落ちた。

133 :猫を描いた少年4 ◆YAKUMOZcw.:2016/07/10(日) 18:17:29.66 ID:/sgcWspY0
 夜がとても更けてから、極めて恐ろしい物音で起こ
された──格闘の物音と甲高い鳴き声であった。小さ
な戸棚のすき間越しに除いてさえも恐ろしいほど酷い
もので、恐怖のためじっと横になったまま息を殺した。
 寺にあった灯りは消えていたが酷い物音は続き、より
酷くなって寺全体が揺れた。長い静寂の時が過ぎても、
少年はまだ動くには恐ろしかった。朝日の光が小さな
戸のすき間から戸棚の中に射し込むまでじっとしていた。
それから非常に用心深く隠れ場所から出て周囲を見回
した。最初に見た物は血に覆われた寺じゅうの床であった。
それから見たのは真ん中に横たわるその死体、巨大なぞっ
とする鼠──鼠の妖怪──牛より大きい。
 しかし誰が、いや何がそいつを殺せたのだろう。人や他の
生き物は見掛けなかった。突然、少年は前の晩に描いた
全ての猫の口が血で赤く濡れているのを発見した。そうして
妖怪は彼の描いた猫に殺されたのだと知った。そしてまた、
博識の老僧がどうして彼に言ったのか初めて理解した。
「夜中は広い場所を避け──小さくなっていなさい……」
 その後、少年はたいそう有名な絵師となった。彼の描いた
猫のいくつかは、まだ日本の旅行者のために陳列されている。

134 :小林 ◆YAKUMOZcw.:2016/07/10(日) 18:26:56.63 ID:/sgcWspY0
Japanese Fairy Tale SeriesのTHE BOY WHO DREW CATSでした

ほぼ1年ぶりの投稿ですね。
これまで翻訳した話は何とか電子書籍にしたもののサイトへの掲載は
まだになっています。

実は仕事が忙しくなって自宅であんまり時間がとれなかったりします。
翻訳の方は仕事の休憩時間にできるので、久しぶりに投稿できたという
訳です。

やるやる詐欺になっている話も多々ありますが、まあぼちぼち手を付けて
行こうと思っています。



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