怪談:妖しい物の話と研究


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奇談
1 :小林 ◆YAKUMOZcw.:2014/08/04(月) 15:16:03.69 ID:XRRvBaIb0
【出版依頼】
【著者】ラフカディオ・ハーン
【翻訳編集】小林幸治
【予定価格】100円

小泉八雲の「怪談」に収録されていない、霊的な話や不思議な話を収録して
電子書籍にします。

話の画像はいつでも募集してます。謝礼はカラー2000円、モノクロ1000円、
著作権は絵師に残り、私に利用権を与え、著作権者は他所で利用しても良い
という方向です。

2015/03/09修正と追記
内容を追加した改訂版の無料アップデートはKindleの規約上不可能であると分かりました
14話程度で1冊作り3巻の電子書籍にする予定です
最後に全話まとめて1冊作り、計4冊にしようかと思います

201 :小林 ◆YAKUMOZcw.:2017/05/02(火) 16:17:54.14 ID:xVYmlhaH0
A Japanese Miscellany(日本雑記)より
The Story of Kogi the Priestでした

人名は原話の雨月物語の通りにしました。
話を雨月物語と比較すると細かいところで意味が違うので
翻訳ミスか英文自体が西洋人向けに改変されているのか
電子書籍やサイトに掲載する前に確認する必要が有ります。

202 :鏡の乙女1 ◆YAKUMOZcw.:2018/12/12(水) 21:27:18.83 ID:3KHt9fPn0
鏡の乙女

 足利幕府の時代、南伊勢の大河内明神の神社は朽ち果てて、その地区の大名
北畠候は戦と諸々の事情から社の修繕の段取りができないのを分かっていた。
その頃、管理の神官松村兵庫は将軍と共に権勢の知られた京都の偉大な大名
細川に助けを求めた。細川候は神官を親切に迎え、大河内明神の状態について
将軍に話しておくと約束した。しかし、いずれにせよ社の修繕を承諾するには相応
の調査と相当な期間無しではできないと言い、事態が落ち着くまで首都にとどまる
よう松村に勧めた。そういう訳で松村は京都へ家族を連れて来て昔の京極地区に
家を借りた。
 この家は立派で広々としてはいるが、長らく人が住んでいなかった。それは不運
の家と言われていた。北東の側には井戸があり、かつての入居者の数人がどんな
原因も不明なままその井戸で溺れ死んだ。けれど松村は神官であるから悪霊を恐
れることは無く、すぐに新しい家によく馴染んだ。

 その年の夏、大きな干魃《かんばつ》があった。何ヵ月も国内の5つの地域に雨
は降らず、川底は乾き、井戸は干上がり、首都でさえ水不足であった。しかし松村
の庭の井戸はほぼいっぱいのまま、その水は──ほのかに青みを帯びた色合いで、
とても冷たく澄んでいて──春まで供給されるようであった。暑い季節の間、都の全
ての地区から多くの人々が水を求めに来て、松村は皆が満足するほど多くの水を汲
むのを許した。それでも水は減るようには見えなかった。
 しかしある朝、近所の屋敷から水を汲みに使わされた若い使用人の死体が井戸
に浮かんでいるのが見付かった。自殺をする理由は想像できず、松村は井戸にまつ
わる数々の嫌な話を思いだして何か見えない悪意を疑い始めた。彼は回りを塀で囲
んでおくつもりで井戸を調べに行き、そこに独りで立っている間水の中の何か生き物
のような突然の動きに驚いた。その動きはすぐに終わり、そして静かな水面に見たと
ころ十九か二十歳くらいの女の姿が明瞭に映っていた。彼女は化粧に熱心なようで、
唇に紅[1]をぬっているのがはっきりと分かった。はじめは横顔が見えるだけであった

203 :鏡の乙女2 ◆YAKUMOZcw.:2018/12/12(水) 21:33:31.04 ID:3KHt9fPn0
が、やがて振り向いて微笑んだ。すぐに彼は心臓に奇妙な衝撃を感じ、そして目眩が
酒の酔いのようにやって来てあの微笑む顔の他はなにもかもが真っ暗になっていっ
た──白く月光のように美しく見れば見るほど美しく下へと引き込む──下へ──暗闇
の底へ。しかし必死の努力で意志を回復して目を閉じた。ふたたび目を開けた時には
顔はいなくなって光が戻り、気が付くと井戸のへりに下向きに覆い被さっていた。あの
目眩以上の瞬間は──あの目の眩む誘惑以上の瞬間は──太陽の上にさえ再び見
ることは無かった……
 家に戻ると身内にどんな事情が有っても井戸に近寄るな、またどんな者にもそこか
ら水を汲むのを許すよう命じた。そして次の日には井戸の回りを頑丈な塀で囲んだ。

 塀が出来てからおよそ1週間後、長らく続いた干魃は風と稲光と雷鳴を伴う大暴風雨
によって破られた──都市全体がそのうねりに揺さぶられ、まるで地震に揺さぶられる
ような途方もない雷であった。三日三晩の間土砂降りと稲光と雷鳴は続き、これまで決
して上がらなかった鴨川の水位が上がり多くの橋を持ち去った。嵐の三日目の夜の丑
の刻の間、神官の屋敷の戸を叩き、入れてくれるよう乞い願う女の声が聞こえた。しか
し松村は井戸での体験による用心から使用人に訴えへの返事を禁じた。彼は自分で戸
口へ行って訊ねた──
「どちら様ですか」
 か弱い声が応えた──
「ごめんください、私です──弥生[2]と申します……松村様にお申し上げしたいことが
ございます──お時間はおかけしません。どうかお開けください……」
 とても用心深く松村が戸を半分開けると、井戸で微笑んでいたのと同じ美しい顔が見
えた。けれど今は微笑みは無く、とても悲しそうな様子であった。
「家に来るんじゃない。」神官は大声をあげた。「お前は人ではなく井戸の者だ……どうし
てこんな邪悪なこころみで人々を欺き滅ぼすのか。」
 井戸の者は宝石がチリンと鳴るような調子の声(玉を転がす声)で答えを紡いだ──
「お話ししたいのは正にその問題でございます……私は決して人を傷付けたくはありま

204 :鏡の乙女3 ◆YAKUMOZcw.:2018/12/12(水) 21:34:21.84 ID:3KHt9fPn0
せんでした。けれど昔から井戸には邪悪な竜が住んでいました。井戸の主でありました
から、その為に井戸は常に満たされていました。ずいぶん昔、そこの水に落ちた私はそ
うして服従することになり、彼には人々の血を飲めるよう私を死へと誘惑させる力が有り
ました。けれど今、天帝が竜に今後は信州領の鳥居の池という湖に住むようお命じにな
り、神々は彼がこの都に戻ることを決して許さないとお決めになりました。そうして今夜
彼が去った後、ご助力の情けを乞いに出ることができました。竜は出発いたしましたか
ら今は井戸にはほんの少ししか水は有りませんので、お捜しになるようご命じなされば
私の体がそこで見つかります。お慈悲へのお礼は必ずいたしますから、滞りなく体を井
戸からお救いくださるようお願いします……」
 そう言って夜の闇に消えた。

 夜明け前に大嵐は過ぎ去り、日が昇ると雲ひとつ無い青空が広がった。朝早く松村は
井戸を捜索させるために井戸の掃除夫を呼びにやった。その時、井戸がほとんど枯れ
ているのが分かり皆が驚いた。それは容易に掃除され、底から非常に古い時代の様式
の髪飾りが幾つかと珍しい形の金属の鏡が見付かった──しかし獣や人の体の痕跡
は無かった。
 しかし松村はその鏡がいくらか不思議に説明を与えるかも知れないと想像したが、そ
れはそういった鏡ごとに自らの魂を持つといった不思議なことがあるからである──そ
れに鏡の魂は女性的である。とても古く見えるこの鏡は汚れで酷く覆われていた。しか
し神官の命令で注意深く磨《みが》かれると、それは貴重なお金をかけて職人の業をつ
ぎ込んだ物だと判明し、裏面には素晴らしい模様が有った──またいくつかの文字も

205 :鏡の乙女4 ◆YAKUMOZcw.:2018/12/12(水) 21:35:12.71 ID:3KHt9fPn0
有った。判別できない文字は有ったが、漢字で表記された日付の一部が「三月三日」
と読み取れた。さて三月は(増える月の意味で)弥生と呼ばれたものだが、三月三日は
祭日で弥生の節句とまだ呼ばれている。井戸の者が「弥生」と名乗ったことを思い出し、
松村は霊的訪問者は鏡の魂以外の何者でもないとほぼ確信した。
 そういう訳で、精霊のために鏡をよくよく考えて扱おうと決心した。慎重に磨き直し再度
銀を塗り直した後で、高価な木で箱を作り家の特別な部屋に受け入れの準備を整えた。
それがうやうやしく部屋へ保管されたのと同じ日の晩、神官が書斎に独りで座ると間も
なく、不意に弥生が自ら彼の前に姿を現した。以前よりも更に愛らしくさえ見えたが、そ
の美貌の輝きが今では真っ白な雲を透して輝く夏の月光のごとく柔らかであった。松村
にうやうやしくお辞儀をした後で彼女は鈴を転がすような甘やかな声で言った──
「こたびは孤独と悲しみよりお救い頂いたお礼に参りました……ご想像に間違いなく鏡
の精にございます。斉明天皇の御代に百済より初めてこちらへ連れて来られ、宮中の
[3]加茂内親王に贈呈され佐賀天皇の御代まで厳《おごそ》かに暮らしました。その後

206 :鏡の乙女5 ◆YAKUMOZcw.:2018/12/12(水) 21:35:43.27 ID:3KHt9fPn0
保元の御代に井戸へ落とされるまで、ずっと藤原氏の家宝となりました。そこで置き去
りにされ大戦[4]の数年の間忘れられました。井戸の主は、かつてこの地域の大部分
をしめる湖に住んでいた邪悪な竜でした。そこに民家を建てるつもりでお上の命令によ
って湖が埋められた後に竜は井戸を占領し、井戸に落ちた時の私を服従させ、多くの
人達を死へと誘うよう無理強いしました。けれど神々は彼を永久に追放しました……さ
て、もうひとつご好意をお願いしたいことが有ります、先の持ち主の家系を継承してい
る将軍義正候へ私を献上して頂きますようお願い申し上げます。お願いします、この最
後の大きなご親切を、それは良いご運を招き寄せるでしょう……けれど災難が迫って
いるとご注進もしなくてはなりません。明日以降この家に居てはなりません、破壊され
ます……」この警告の言葉と共に弥生は姿を消した。

 松村はこの予告を活かすことができた。翌日身内と家財を他所の地区へ移すと、そ
の後ほとんど間を置かず別の嵐が起こり、それは前のより強烈で住んでいた家を押し
流す洪水さえ引き起こした。
 しばらくして松村は細川候の好意により義正将軍との謁見の許しを得て、その不思
議な来歴を記した書と共に鏡を贈った。そうして将軍はこの風変わりな贈り物を大いに
喜び、高価な褒美を松村へ下賜しただけではなく大河内明神を再建するに十分な褒
賞金も与え、鏡の精の予言は成就された。

207 :鏡の乙女6 ◆YAKUMOZcw.:2018/12/12(水) 21:36:11.47 ID:3KHt9fPn0


[1]ベンガラの一種で、今は唇に色を付けるためだけに使われる。
[2]珍しくはあるが、この名前はまだ使われている。
[3]斉名天皇はAD655年から662年まで統治し、嵯峨天皇は810年から842年─
─百済は日本史の初期にしばしば記載されるコリア南西部の古代王国──『内親王』
は皇家の血筋。古代の朝廷の女性には二十五の階級、つまり身分があった──『内
親王』のそれは7番目の位である。
[4]何世紀もの間、皇后と宮中の女官は藤原氏から選ばれた──保元と呼ばれる期
間は1156年から1159年まで続き、言及されているのは平と源一族の間の有名な
戦である。
[5]古い時代の信仰では、あらゆる湖や泉が目に見えない守護者を持ち、時には大蛇
や竜の姿をとると考えられた。湖や池の精霊は一般に『池の主』湖の主と言われた。
ここでは井戸に住む竜に「主」の称号が与えられていると分かるが、真実の井戸の守
護者は水神という神である。

208 :小林 ◆YAKUMOZcw.:2018/12/12(水) 21:41:59.49 ID:3KHt9fPn0
THE ROMANCE OF THE MILKY WAY AND OTHER STUDIES & STORIES
(天の川縁起その他)よりTThe Mirror Maidenでした。

いや〜久しぶりの追加です。翻訳が終わったのがあと2話あります。
ただ電子書籍にするには、少し長い話をもう1話翻訳する必要が有ったりと
まだまだ色々とやる事があります。
またボチボチとやっていきます。

209 :弘法大師の書1 ◆YAKUMOZcw.:2021/04/08(木) 23:32:13.02 ID:XHiqwpwH0
弘法大師の書



 弘法大師は仏教の僧侶の最高の聖者にして──友人アキラの宗派──
真言宗の開祖であり、最初に平仮名という書法とイロハの文字表で日本人
に書き方を教え、かつ弘法大師は自身が数多の書家の中で最も素晴らしく、
法学者の間では最も巧みな魔術師であった。
 弘法大師一代記という本では、チャイナに居た頃皇帝の宮殿のとある部屋
に書かれた名前が時を経て消えたため、皇帝が使いをやって彼に名前を書
き直すよう命じたと語られている。そこで直ちに弘法大師は右手に筆を、左手
にも筆を、左足の指の間にも筆を1本、右の足の指の間にも別のを、口にも
1本とって、この5本の筆を巧みに握り壁に文字を描いた。そしてその文字は、
それまでチャイナで見られたどんな物よりも──川の流れが作るさざ波のよ
うになだらかで──美しかった。それから弘法大師は筆をとり遠くから壁に向
かって墨のしずくを跳ねかけると、そのしずくは回転し変形して美しい文字の
中に落ちた。そして皇帝は弘法大師に5本の筆で書く僧侶を意味する、五筆
和尚の名を与えた。
 別の時、聖者が京都に近い高和山に住んでいる間、天皇は金剛乗寺と呼
ばれる立派な寺のため弘法大師に額に書をしたためて欲しくてたまらなくなり、
使いの者に額を持たせ弘法大師のもとへ運びそれに弘法大師の文字を描い
てもらうよう命じた。しかし天皇の使者が額を背負って弘法大師の住む所の
近くまで来た時、前に在る川が雨のために大変増水しており誰も渡れそうに
ないと気が付いた。しかしながら、しばらくすると弘法大師が向こう岸に姿を
見せ使者から天皇が望んでいることを聞かされると、額を頭上にかかげるよう
呼び掛けた。使者はそのようにし、弘法大師が向こう岸の所から筆で文字を
描くように動くと、その動作と同じ速さで使者が掲げる額の上に現れた。

210 :弘法大師の書2 ◆YAKUMOZcw.:2021/04/08(木) 23:35:15.64 ID:XHiqwpwH0


 さて、弘法大師はその頃独り川辺で瞑想をする習慣があり、ある日そうして
瞑想をしている時、前に立って不思議そうに見つめる男の子に気が付いた。
子供の身なりは貧乏人が着る衣装であったが、その顔は美しかった。弘法大
師が訝《いぶか》るうちに男の子が訊ねた「人呼んで『五筆和尚』──瞬く間に
5本の筆で字を書くお坊様──の弘法大師はあなたか。」弘法大師が「私で
す。」と答えると子供は言った「ならば空に描いて下さい、お願いします。」弘法
大師は立ち上がり筆をとって空に向かい書くような所作をすると、まもなく空の
面《おもて》に極めて美しく描かれた文字が浮かび上がった。すると男の子が
「さて、わしもやってみよう。」と言って弘法大師がしたように空へ書いた。そして
再び弘法大師に言った「願わくば、わしの為に書いていただきたい──川の面
にお書きください。」それから弘法大師が水を讃える詩を水の上に書くと、それ
は落ち葉のようにまったく美しく流れの上にしばらくの間留まったが、やがて流
れに運ばれ漂い去った。「ではわしもやってみよう。」と男の子は言って、水の
上に龍の文字を書いた──『龍』の文字は草書「草文字」の様式で書かれ、そ
の文字は動かず水面に浮かんで残った。しかしその男の子が点を文字に属す
る小さな点を側に置かなかったのを弘法大師はは見た。そして訊ねた「どうして
点を置かなかったのかな。」「ああ忘れてた。」男の子は返し「どうかわしの為に
そこへ書いてください。」そうして弘法大師は点を打った。すると、何と、龍の文
字は本物の龍になって、龍は水しぶきの中を激しく動き空は雷雲と稲光を伴っ
て暗くなり、渦巻く暴風雨の中龍は天に昇っていった。
 それから弘法大師は訊ねた「あなたは何者ですか。」男の子が答える「人々が
五台山に崇拝する者、智恵の司──文殊菩薩──が私です。」話している間に
男の子の姿は変わり、その美貌は神々しく輝き、四肢は光を放ち周囲《あたり》を
柔らかな光で包んだ。そして微笑みながら天に昇り雲の彼方へ消えた。

211 :弘法大師の書3 ◆YAKUMOZcw.:2021/04/08(木) 23:38:55.50 ID:XHiqwpwH0
 さて、弘法大師はその頃独り川辺で瞑想をする習慣があり、ある日そうして


 しかし弘法大師自身かつて天皇が住まう御所の門、大手門の名前を描いた
額の大の文字の側に点を書き忘れたことが有る。そして京都の天皇がどうして
文字の側に点を打たなかったのか訊ねると弘法大師は答えた「忘れていました
が、今から打ちましょう。」それから天皇は額が既に門の高い所に置かれていた
ので、はしごを持ってくるよう命じた。けれど弘法大師は門の前の舗道に立って
無造作に額へ筆を投げると、そうして投げられた筆は極めて見事に点を打って
手元に戻って来た。
 また弘法大師は京都の光化門と呼ばれる天皇の御所の門の額を描いた。さて、
その門の近くに木百枝《きのももえ》という 名の男が住んでいて、弘法大師の書
の文字のひとつを指差し冷やかして言った「あら、あれはふんぞり返った力士の
ようだ。」その夜、百枝は寝床に力士がやって来て彼の上に飛び乗り両の拳で殴
られる夢を見た。強く打たれた痛みで叫び目が醒めると宙に昇る力士が見え、前
に笑った書の文字に姿を変えて門の上の額に戻った。
 そして偉大な技量で有名な小野茂徳《おのもとく》という別の書家がいて、弘法
大師の書いた朱郭門の額のいくつかの文字を笑い、朱の文字を指して言った「朱
がまるで米のようだ。」その夜、冷やかした文字が男の人になる夢を見て、その男
が彼の上に倒れこんで跳び上がったり下がったりして「見たか、我は弘法大師の
使いだ。」と言いながら顔を何度も何度も──まるで杵を上下に動かして米を叩い
て精米する米つきのように──打った。目が醒めると、ひどく踏みつけられたかの
ように血を流し怪我をしている自分に気が付いた。
 弘法大師の死から随分たってから、御所の2つの門──美しい幸せの門の美福
門と素晴らしく偉大な門の光化門──の彼が書いた名前がほとんど消えているの
が分かった。そして額を復元するよう天皇は行成という名の大納言[1]に命じた。し
かし行成は他の人達に何が起こったかを思うと天皇の命令を行うのが怖く、弘法大
師の罰を恐れ、お供えをして何か許しの印《しるし》をもらえるよう祈願した。その夜、
弘法大師が夢に現れて優しく微笑み言った「陛下のお望みを叶える時に恐れては

212 :弘法大師の書4 ◆YAKUMOZcw.:2021/04/08(木) 23:41:51.60 ID:XHiqwpwH0
>>211の1行目は間違いなので削除

なりません。」そうして本朝文推という本に記録されているように彼は官公4年
の1月に額を修復した。
 この出来事の全ては友人アキラが語ってくれた。

[1]大納言、古代朝廷の高官の役職。

213 :小林 ◆YAKUMOZcw.:2021/04/08(木) 23:52:16.42 ID:XHiqwpwH0
Glimpses of Unfamiliar Japan(知られざる日本の面影)より
The Writing of Kobodaishiでした。

仕事多忙の為、翻訳はほとんど進んでいません。弘法大師の書の翻訳
も何年か前にしたまま見直さないまま投稿しています。

あと1話、鎌倉の十一面観音の話を近い内に投稿できると思います。
その後は残す長文の1話が翻訳できたら、英文和文とも翻訳してサイト
アップや電子書籍の出版ができるのですが、まだまだ先になりそうです。

214 :十一面観音 ◆YAKUMOZcw.:2021/04/29(木) 23:01:27.44 ID:YbLjnxCC0
 厳正天皇の御代、大和国に放棄菩薩の生まれ変わりでは
あるが、庶民の魂を救済するため普通の人々の間に転生した
仏教の僧侶の徳堂上人が住んでいた。さて、その頃徳堂上人
が夜中に大和の谷を歩いていると素晴らしい輝きを見かけ、そ
の方角へ行ってみると倒れた楠の木の幹から出ているのが分
かった。木からは芳香が漂い、その輝きはさながら月光のよう
であった。こうした兆候から徳堂上人はこの木が尊い物と知り、
熟考の末それを元に自分が観音像を彫るべきと思った。そして
読経をし念仏を繰り返し霊感を授かるよう祈願していると、その
間に老人と老婆が前に来て立ちこう言った「あなたの願いが、
天の助けを借りてこの木から観音様のお姿を彫ることだと承知
していますから、祈り続けなさい、像は我々が彫りましょう。」
 徳堂上人が命じられたようにすると、巨大な幹がするすると同
じような2つの部分に割れて、それぞれが肖像の形に彫られ始
めるのが見えた。3日の間彼らがまめまめしく働くのが見られ、
3日目にその仕事は完了した──目の前には完璧に仕上げら
れた2つの観音像があった。そして見知らぬ人達に言った「名の
有る方々と存じますが、お祈りにあたってお教え頂けませんか。」
それに老いた男が答えた「我は春日明神なり」女も答えた「天照
皇大神と呼ばれる太陽の女神が私です。」そして話した通り そ
れぞれの姿が変わり天に昇って徳堂上人の視界から消えた。[1]

215 :十一面観音2 ◆YAKUMOZcw.:2021/04/29(木) 23:02:22.21 ID:YbLjnxCC0
 この出来事を聞いた天皇は、お供えを用意して寺を建てるため
に代理を大和へ送った。また偉大な聖者行基菩薩が来て像の開
眼供養をし、天皇の命で建てられた寺にささげた。そして像のひ
とつを寺に安置し「そなたは生きとし生ける物の全てを救うため
何時までもここに留まりなさい」と命じた。しかしもうひとつの像は
海に投げて「そなたはたとえぼろぼろになったとしても全ての生活
を護るのに最善の場所へ行きなさい」と言った。
 さてその像は鎌倉へと漂った。夜の間にそこへ着いて辺り全体
にまるで海から昇る太陽のような大きな光を発し、強い光に目を
覚まされた鎌倉の漁師が舟を出して、漂う像を見付け岸へ持ち帰っ
た。そして天皇はそれのために寺を建てるべきと命じ、その寺は
鎌倉の開高山という山の上で新長谷井寺と呼ばれた。

[1]この古い伝承は、仏教が既にインドとチャイナで吸収したよう
に神道の神性を吸収する努力の実例として独特のおもむきが有
る。国教として神道が大きく復活するのにこうした努力が存在する。
しかし出雲と西日本の他の地域おいて神道は常に優勢なままで、
多くの財産を仏教へ流用さえして習合している。

216 :小林 ◆YAKUMOZcw.:2021/04/29(木) 23:07:38.63 ID:YbLjnxCC0
Glimpses of Unfamiliar Japan(知られざる日本の面影)より
Story of a Jiu-ichi-men-Kwannonでした。

あと1話「踊る女」という話を翻訳中です。平日は1日1時間
しかパソコンの前に座れないので、完成はまだまだ先になり
そうです。



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