怪談:妖しい物の話と研究


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奇談
83 :守られた約束1 ◆YAKUMOZcw.:2014/12/27(土) 09:52:02.60 ID:h3tzpEyN0
守られた約束


※「雨月物語」で語られていた。

「初秋の頃には帰るだろう、」赤穴宗右衛門《あかなそうえもん》が
言ったのは、何百年か前──義兄弟の若い丈部左門《はせべさもん》
へさよならを告げた時である。時は春、所は播磨国《はりまのくに》の
加古《かと》村。赤穴は出雲の侍で、生まれ故郷への里帰りを望んでいた。
 丈部は言った──
「あなたの出雲──八雲立つ国[1]──は 、かなり遠方です。ですから、
どれか特別の日にここへ帰る約束は、きっと難しいでしょう。けれど
我々にその特別な日が分かるなら、嬉しく思います。それなら、歓迎の
ご馳走の準備と、門口でお出迎えが出来ます。」
「どうして、そのような」赤穴が返す「わしは旅にはよくよく慣れたもの
ゆえ、その場に着く迄どれだけかかるか、普通に話せるが、ここでの
特別な日を確実に約束できる。我々が重陽《ちょうよう》の節句と呼ぶ日
だろう。」
「それは9月の9日ですね、」と丈部は言い──「その頃には菊の花が
咲きます、一緒に見に行けますね。どんなに楽しいことでしょう……
9月9日にお帰りになる、確かな約束ですか。」
「9月9日に、」赤穴は繰り返し、微笑みながら暇乞《いとまご》いをした。
それから彼は播磨国の加古村から大股で歩き去った──丈部左門と
丈部の母は、目に涙を浮かべて見送った。



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